量から質への転換

夏は夏期講習が午前中で終わるので比較的時間があるために算数を集中して勉強しているところですが、サピのカリキュラムや算数の様々な問題集のレベルを見ていて「量から質への転換」が起こるというのはどういう事なのかについて考えたので所感を。

これまで何度か書いて来たかと思いますが、サピの算数のカリキュラムは進度が早く特に5年後半からはスピードが上がってきます。このために毎回の進度が早く消化不良になりがちなのではないかという事で今回の夏休みを利用して先取りの学習を進めているところです。

他方、教材はデイリーサポート、デイリーの復習用の冊子、A問題、デイリーチェックの週1のテスト、基礎力定着テスト、基礎トレ、マンスリー等の定期テストと繰り返しの反復回数が半端ないくらいしつこくタイムラグをおいて繰り返しをしています。

人によって理解のスピード、問題を解けるようになるまでにかかる時間は様々で、かなりの見込みが速くて応用力のある子供なら翌週のデイリーチェックでよい点を取れますが、通常は新しい概念を学んでからそれが自分の身になって自然になるまでは一定の時間がかかるものだと思います。

ちょうど、今、夏期講習で半分以上前期のレビューという形で復習+深堀という形でカリキュラムが組まれているのですが、これはよく考えられていて、一旦、通常の授業を春にこなした子供の場合には、習ってから3ヶ月程度経っておりしっかりと定着する時期になり、以前は難しいと思った事も、「慣れてきて」自然だと思えるようになったのではないかと思います。

振り返ってみると、小学校の低学年の四則演算の計算、小数の計算、分数の計算などもはじめはルールをどう使うか戸惑いながらも、数をある程度こなす上に計算ルールに馴染んできて自然に、そして次第に要領よく、速く計算できるようになってきており、それと同じ事なのだと思います。

中学受験の算数の場合、特に5年生の算数は盛りだくさんで特殊算、速さ、比、割合、平面図形と次々と新しい概念が出てきてそれの習得に追われ、十分に消化できないまま次の単元がやってきてしまうという事があるように思います。

これについても四則演算と同様、その週に100%定着しなかったとしてもある程度の演習量をこなす事で慣れてきて馴染んでくるはずです。違う事をやってしばらくするといつの間にか分かるようになっている事もままある話で、これは演習量をこなすだけではなく、物理的に時間感覚が空く事で自然と出来るようになるという点もあるようです。

自分自身も、大学で高校までとは違う全く新しい概念を初めて習ったときには全くついていけないと思ったのですが、1年も経つとその概念を自然に使いこなせるようになっていることに気づきました。第二外国語についてもドイツ語でしたが始めは大変なものを取ってしまったと思いましたが、1年も経つと違和感がなくなりました。このようにある程度脳が新しい概念に馴染むには一定の時間が必要だと思っています。

他方、特に算数の場合「できる」と自分で思えるようになるのは、この時間経過による「慣れ」だけでは足りず、ある時期に集中して「演習量」をこなす事が大切です。今、自分が何をやっているか、何が大切なのかを意識して問題を解くのが望ましいのですが、極端な場合、解答を写すことでも、考え方やポイントを学び取る事が出来るのではないかと思います。応用問題で分からないというものでも、何回か解き直したり、類題を集中して解いてみると、あるところで「量」が「質」に転化して「分かった、もうできる」と思える時がきます。

この感覚は主観的なものです。その問題を解くのに必要なアプローチ方法や考え方が確立したことを自分で実感できるという事なのですが、そのためには基礎的な道具が使いこなせるようになっていることが必要です。ちょうど自動車の運転に例えると、車自体の操作に追われている時には、より高次元の周りの安全状況や、車の流れ、道のつながりまで気を配る事が出来ないように、基礎が確立していないと、より高次元のこの問題を解く際のポイント、何に気づければできるのか、という点まで気を向ける事が出来ないのだと思います。

ある程度集中して問題を解いたり、基礎的な問題を数をこなしてその面での精神的な負担がなくなったときに、より高次元のこの問題のエッセンスは何か、ということに注意を向ける事が出来るのだと思います。問題のポイントが見抜けるようになると、「ああ、これでこの分野は出来るようになった」という実感をえるのだと思います。

サピのカリキュラムは4年時、5年時に徹底して反復演習をしており、6年時での入試レベルとのギャップが激しいようにも感じていたのですが、小学生の精神年齢の発達段階を踏まえれば、この時期は基礎(野球の素振りや投げ込みみたいなもの)を徹底してやり、精神的、体力的成長の期待できる6年時には、高次元の問題のポイントや着眼点のトレーニングにフォーカスできるというものなのかと思いました。

これはこれでありだと思います。特に算数の場合、この5年時までの「基礎」と呼ばれるものも他の科目と比べるとハードルが高いために基本問題の反復練習による定着をハードにやる必要があると思います。これをしつこくやることによって頭に概念を「馴染ませて」手法を適用する際の精神的なハードルが下がる状態になると、難しい問題も解けるになるという仕組みなのかと。この辺りは大人が考える以上に子供の脳は柔軟で伸びしろがあるように思います。

ただ、このラーニングカーブは、サピが設定した想定対象の小学生向けのカリキュラムなので、そこを自分の子供に向けてどう適応させるかは、子供の様子を見ながら判断する必要があり難しいところです。特にマンスリーのテストではその時点での習熟度がでてしまい、飲み込みが早い子供の方が良い結果となりますが、上記の通り、基礎をガチガチに固めておけば、6年時においては、足腰が鍛えられているのでハードな運動についていける、という事になるのではないでしょうか。逆に基礎的な演習をおろそかにすると、土台が弱く、乱取り稽古では厳しくなるのかもしれません。

以上、やや抽象的ではありましたが、この時期に「量」をこなして定着を図る事がある時点で質に転化するきっかけになるのではないかと思ったのでコメントしました。

我が子の場合はこの質に転化するような適当なレベルの演習強度が足りないと思ったので夏はきつめにやっています。基本と応用のバランスをとりつつやらせているのですが、先取りについてはハードにせずに「馴染ませる」ことを中心にした方がいいのかもしれません。この辺り、様子をみて調整したいと思っています。