算数 ー 入試レベルまでの差分

組み分けがかかるテストも終わり、夏の終わりまではクラス昇降があるテストもないので夏期講習の期間以外の夏に腰を据えて学力の底上げを図りたいと思います。

5年前半のマンスリー、組み分け等のテストと入試問題を見ている限りにおいて、理科と社会は現時点と最終的な入試レベルとの間が遥か彼方に離れていてまだまだ全然足りないという事はない感じがしており、内容を一巡してちゃんと覚えるべき事を覚え、知識を体系的に整理して理解できていれば入試即応の対応をすれば大丈夫ではないかと思っています。

他方、算数と国語は入試と比較した場合まだまだ相当なギャップがあります。国語についてはまた改めるとして算数についての考えを今回は書きたいと思います。


毎回、マンスリー、組み分けについて試験問題を見ていますがそのレベル感と実際の入試(過去問等から分析)で比べてみると、5年生の算数が現時点の子供に取って難しいと言っても6年生の今の時期で見たら、楽勝で出来てしまう程度の内容なのではないかと思います。応用問題と言っても中堅校に出てくる典型問題、難しめの問題は、気をつけるべき点が御三家とかでよく問われる点のエッセンスを問題に落とし込んだ内容となっていますが、実際の入試問題と比べるとその聞かれ方はだいぶ違うように思います。
 実際の入試問題は、やはり入試問題独特の雰囲気があります。サピのマンスリー、組み分けはニュアンスや雰囲気が実際の入試問題と比べると近づけてはいますが技巧的、人工的な気がします。
 この辺りを踏まえて以下、比較していきたいと思います。

1.入試レベルとは
学校も色々あるのですが、関東男子校で行くとサピ偏差値60以上の筑駒、開成、駒場東邦、麻布のグループ、55から60の海城、早稲田、慶応、武蔵、偏差値50から55位の学校 芝、本郷、攻玉社あたりで考えます。それ以外にも学校はありますが、入試傾向の違いはあるものの、コンセプトはあまり変わらないと思いますので、志望校がある人は適宜実際に当てはまるか考えてもらえばいいかと思います。

まず、偏差値60以上の学校では、基本的なパターン問題がそのまま出る事はほとんどありません。問題数も大問3、4問という形式で、特殊算よりも、規則性の発見、試行錯誤をするもの、組み合わせというその場で考え出す事が必要なもの、平面図形、立体図形、動的な変化を伴うもの、あたりが多いように思います。
 次のグループは半分はパターンをそのまま適用すれば出来る問題に加えて思考力を問う問題が半分くらい、偏差値50くらいだと、パターン問題に加えてパターンをややひねった形で思考力を見る、という形態になるかと思います。
 それ以下だと、パターン問題のあてはめで対応がほぼ可能となります。

この辺りは実際に過去問題を入手して眺めてみてもらうか算数の銀本をかって眺めてもらうとよくわかるかと思いますし、サピからも分析集が出てると思います。

サピに行くという事は、偏差値50以下の学校を第1志望にすることはないかと思います。(そうであるならば、違う塾の方がニーズにかなった授業を受けられると思います。)まずは御三家、早慶という感じではないかと思いますが、そのためにはパターン問題ができるだけでは合格基準点をクリアする事は出来ません。それに加えて思考力系の問題を皆が出来るレベルには対応できる事が必要となります。

5年生でやっていることと、この実際の入試問題で思考力、応用力を図る問題とのギャップが実は相当あります。また、基本的なパターン問題は出来ないと始まりませんが、難関校になるほどそのままではでないので、「そうした考え方、アプローチ」を応用できるかが問われる事になります。

これをよく「地頭力」と呼ぶ事が多いかと思いますが、大学入試や算数オリンピックのように一問に十分な時間をかけて対応することができる形式の試験は、「思考力」と呼べますが、中学受験では10分程度でこれらの問題に対して一定の解を出すスピードが求められるため、「類題検索力」という方が正しい気がします。過去の中学入試においてはまだ牧歌的で試行錯誤の時間がありましたが、現在においては、むしろこうした問題に対応するためには、類題を頭の中で検索してあてはめする能力に置き換わってきています。

算数が本当に好きな人は、この「自分で解けるまでじっくり考える」という経験を踏んでそれでその自分の「解けたというアハ体験」を実際の入試に経験として持ち込む、という事なのでしょうが、実際のところ全員が算数小僧であるわけではないので、むしろ6年時にはある意味ブロイラーのように入試レベルでの実戦演習を頭に流し込んでいく、という事になるかと思います。ここではこの是非については議論しませんが、いかに効率よくこうした入試レベルでの応用問題のエッセンスを吸収して体現できるかという事だと思います。

このためにそれ以前の項目は5年時に終わらせてしまい、そのレベルはいつでも使える道具のレベルまで修練を積んでおく必要があります。そして来るべき6年生の特訓に耐える基礎力を作る、というのがサピの算数のストラテジーだと思います。

他方、だからといって絶望的に感じる事もなく、今のマンスリーは、新たな単元を習って1ヶ月以内にそれをアウトプットする事が求められており、新たな知識を使えるようにするリードタイムが1ヶ月は常人にとっては厳しく、あきらめてしまいがちですが、6年時には一旦立体等の分野を除いては終わっているので、それまでにパターン分野を仕上げておけば、6年時の最初で同一のスタートラインにたつことができます。
 ただし、マンスリーや組分けでクラスが決まるのでこの時点では後ろからのスタートになるかと思いますし、単位時間あたりのCPUの処理能力に応じて5年時のクラスが決まるということもあり、逆転が簡単かというとそうでもないとは思います。ただ、純粋に新しい分野はでないのと、求められる能力の質が異なっているので逆に6年時で伸びる人もいるかと思います。重要なのは、基礎のパターン問題から先の入試レベルの一筋縄では行かない応用問題をマスターしていくプロセスがちゃんとこなせるかという点になります。
 
車で言えば、5年までが免許を取るまでで車を動かす最低限の事を学びますが、6年では実際にいろいろな局面で車を運転して経験値を上げ、運転そのものの基本操作はもはや無意識で出来るレベルになり、周りの状況、交通渋滞、道順などより高度な事に意識を向けられるようになるまで熟練する必要がある訳です。そういう意味で、がっちりと基本動作をやるのが5年時という事が言えます。ただ、このときにまだあやふやでもそれより高いレベルでガンガン演習すると基本レベルは出来てしまうようになるとも言えます。

2.重要単元
御三家などでは、規則性を試行錯誤を通して発見してあてはめるような問題、組み合わせ、数え上げなどの数に関する問題が重要です。後は立体の切断、展開図、平面図形(面積比)などでしょうか。動的なもの(点が動く、水の問題、2人が動く)なども好きそうです。文章題は複雑な設定や、3元連立方程式になるもの、整数解の不定方程式などが重要かと思います。

3.現時点
これらは実は5年生のカリキュラムだけでは十分ではありません。基本的なものは触りますが、6年生で実践的な演習でクリアしていく事になります。

逆に今やっている中で特殊算はそれ自体で閉じていますが、これはそれぞれの単元で何がポイントかをマスターする事が大切です。
 方程式で代数的な処理をできるようにしておいて、文章題の状況設定のポイントを図、式に落とすトレーニングができると、全ては体系的に同一の頭の使い方で処理できて負担が減るかと思います。

比については、個々の問題というよりもその考え方、問題へのアプローチの仕方をマスターするというのが本質です。単なる道具です。ただ使い道が広いので難しい。比については、分数との行き来や平面図形への応用、線分図への応用等どういう状況でどう使えばいいのかを慣れ親しんで便利なツールとして使えるようにする必要があります。

速さについては、それ自体は「速さ=距離/時間」というつまらない定義以外の何者でもないですが、2人が動いたり、追いかけたり、遅れて追いかけたり、いろんなバリエーションの問題が作る事が出来るところに特徴があります。またダイヤグラム、比、平面図形なども絡める事が出来るので問題は作りやすいのですが、本質は「動くもの」をどう捉え、どう表現するか、という点につきると思います。言い方変えると「動くもの系」じゃないでしょうか。

平面図形や立体は5年時では単純ですが、一番の華は比を使った面積比の問題です。ここは体系的な解法の立てにくいパズル的な要素のがある問題が作りやすく、解法へのアプローチに「センス」が出るところでもあります。とはいえ、このセンスも「視点」に対するトレーニングでしかないのですが、ここも入試レベルでは非常にいろんなバリエーション、難易度の問題が作れるところです。

4.獲得すべき能力

現時点で追求すべきは以下

1)高度な計算能力
 ー如何に「楽して要領よく」間違えないようにできるか。
 ー単純で面倒な計算は、やれと言われたら出来ないと行けませんが、その場合でも最小手数を追求
 ーミスをしない計算方法、間違えを見つけられる解答プロセス
 ー「計算しないのが一番ミスしない」ので、最初手数で必要最小限の計算をどうしたらできるか。

2)パターン問題、特に文章題での条件の図、線分図への落とし込み
 ー日本語を図、線分図へ翻訳するトレーニング
 ー初見の問題だと出来ないので、典型的なパターン問題で題意を図、線分図等に落とすトレーニングを通じて、それからはずした一般の文章題も条件を図、線分図等に落とし込めるようにする読解力と慣れ。
 
3)比、速さのコンセプトへの慣れ
 ー抽象概念で難しいというのもありますが、慣れで克服するところもあります。慣れるには時間がかかるので抽象概念の操作が不得意な場合は、簡単な問題の量をこなすことを通してから難易度をあげていく必要があります。サピのカリキュラムのスピードだと人によっては速すぎてついて行けないかもしれません。コンセプトだけはなるべく早い時期から触って馴染んでおく事が必要ではないでしょうか。

合わせて今の時点から慣れておくべき事

1)初見の難しめの応用問題への慣れ
 ー時間はかかるが15分から20分程度自分で出来るところまで考えてみる、ヒント見ながらやってそれで答えを見て納得する。5年生向けに加工されたサピの組み分けの問題よりも、偏差値50前後の入試問題とかをやってみるといいかもしれません。基礎知識を知っている事と解ける事のギャップが何かに着いて気づきが得られると思います。

2)試行錯誤力
 ー分からないのではなくとにかく紙と鉛筆で手を動かして見る。立体なら実際に切ってみたり展開図なら作ってみる。算数は実験する事は余りないですが、試行錯誤を通じて見えてくる物があるのでじっと眺めて考えるのはやめる。うまい解法がある事が多いですが、力ずくでやってみる事も大切。

3)エッセンス抽出力
 ー現時点での問題が解けないのは計算処理力やスピードに負うところもありますが、問題について解ける、解けないについてポイントとなる事は一つの問題において、2、3のポイントに限定されると思うので、それについて
  ー何故出来ないのか。
  ーどこに気をつけると気づけるのか
 あたりを自分でちゃんと整理してストックできるようになるのが大切です。所詮出来ない問題はこうした事をやってもできないので、だいたい同レベルの受験生が出来て差がつくだろう問題でこのエッセンスを押さえた解けるようになる問題をどれだけ増やせるかが今後のポイントになるかと思います。